GEISAIミュージアム#1

日本美術界の革命は起こるのか?

1. 「GEISAI」の起源は「寺子屋」
「GEISAI」を興した出自は、江戸時代の「寺子屋」的な教育の現場だった。日本美術、芸術の未来をになう「作家の卵達の培養槽」をつくり、欧米の美術、芸術が出自してゆく構造とは一線を画した、日本独自の新しい「システム」を作りたい。そして、その土台となって行くのはとりもなおさず「人材」なのだ。その人材を養成して行く日本型の美術、芸術の教育機関をうまくオーガナイズすることは出来ないのか?現行の美術大学、美術専門学校教育の現場では教えられていないであろう、「世の中と対峙して行くためのコミュニケーション能力」を、現場で実験し、トレーニングし、結果を想定出来る推論を立てて、現実社会へと船出して行くこと。そんな仕組みを作りたい、と大志を持って、「GEISAI」の前身であるイベント『芸術道場』はスタートした。

LAPNET SHIP(フォレット原宿)という原宿のデパート内のギャラリースペースに、畳を敷き詰めて、会場はまさに「道場」といった趣にディスプレイされた。送られて来たファイルで生徒を選抜する審査を行い、50人程の「道場生」達を選んで生徒とした。そして、まずは3日間、3組のゲスト講師の聴講と、自身の作品のプレゼンテーション、そして合同のクリティークといった形で作品の講評会が行われた。この中から優秀作品、作家を選り抜き、最後は「3組のプロのアーティスト」達と同じ土俵で展覧会を行う、という随分と入り組んだシステムを盛込んだイベントだった。これは、最初にして私の理想にかなり近いものだった。しかし完成型では無い。このイベントの反省点を解決して行くべく、少しづつ変化を遂げて行き、名前も変え、そして2002年より「GEISAI」のスタートとなった。

このような出自からして、「GEISAI」の核心は教育的なコンセプトを抱えているイベントだったのだ。プロへのデビューの仕方、作品の売り方、買い方、見方等を、日本の社会のリアリティに即した形で学んで行って欲しい。そういった場を提供し続ける事が「GEISAI」の根幹なのだ。

2. 日本美術業界への不満
私は日本の美術界に対して、拭えぬ疑念と絶望を感じている。日本のアートマーケットを信じていないし、美術館の成り立ちに不満もある。突き詰めて行けばそこで働く人間達の意識、展望の無さ、それら美術業界の状況に対しての憤りである。であるからして、最近、話題になっている公立美術館の閉鎖や、予算不足のドタバタ経過に至っては、むしろ痛快にすら感じて見聞きをしている次第だ。しかし物事を根幹から変えて行く事は、たやすい事では無かろう。特別、美術館と言った公立の機関であれば、公衆との対話も運営の要素として入れて行く必要がある。そうすると定めたターゲットへの焦点もぶれてしまう事もあるだろう。「学芸員」という名の雑務係が、あれもこれもと四六時中働き回っても終らぬ業務に同情も出来よう。しかし、そんな現場でも改変への糸口はあるだろうし、仕組みを変えて行くような「根幹の発見」を、美術業界誌に発表するぐらいは出来るはずだ。

どんな社会だろうとギュウギュウ詰めの現実と、理想の現場の隔たりはあるはずだ。その間を埋めて行く勇気と知恵を絞る、そして惜しまぬ労働への気力こそが、この業界に生きる人々が、長い間、忘れて来たことなのだ。アートマーケットを司る者達にいたっては、バブル経済時に失墜させたマーケットへの信頼回復シナリオを書いている気配もなく、最近では当時と全く同じような非常に低レベルな美術投機を、現代美術に暗いコレクターや、無知な素人蒐集家へ勧めている輩も出現している。

このままではまた、数年で日本の美術業界の信頼は失墜する、と予言しておこう。そうなればそうなったで、自分の身の置き場も含めて、あざ笑ってやろうと思う。そしてアートマーケットが視野に入っていない日本の美術ジャーナリズムも、根拠の薄いSFチックなアート未来像の案出や、リアリティが無い海外レポートのみの誌面は改変して行った方が良いだろう。私達は「大きなふろしき」だけでは無く、集中した「含蓄のある情報」を待っているのだ。

3. 「GEISAIミュージアム」
「GEISAIミュージアム」に参加して頂いている審査員の方々は言わずもがな、全員美術館や博物館の館長、もしくは組織のトップを司る方々だ。どの方も先述したようなミュージアムとは一線を画した、業界の改善を本気で考えて、実行奔走している方々である。

彼等は正しい眼を持っている。現在、考えられる日本におけるミュージアム関係者のトップオブザトップである、そう私は信じている。今回、審査され、作品を観賞してもらう若きアーティスト達にとってはこの「GEISAIミュージアム」が、参加アーティスト達の未来を占う福音になって欲しいと願うばかりだ。また審査員の方々は、現場の主役である、若いアーティスト達について、ダイレクトなコミュニケーション体験が乏しくなっている可能性も高い。今回の「GEISAIミュージアム」が、皆さんにとって、美術業界のレボリューションを共に担えるパートナーや、アーティストとの、良き出会いの場となってくれるよう、出来る限りのセッティングをして行きたいと思っている。

また過去4回行って来た「GEISAI」と今回の「GEISAIミュージアム」の差は審査員の面々だけでは無い。今回は思い切って、審査方法も激変させた。つまり上位3賞を決定するコンペティションでは無く、各審査員がすべての出展者に点数をつけて行き、その合計点で1位から最下位までが決定するという仕組み「全順位完全決定システム」を案出した。

参加者、関係者には、賛否両論があることは承知の上だ。しかし私の経験上、現実の美術業界内においては、暗黙ではあれ、常にランキングは施行されている。このランキングの昇り降りは、スピードこそ違え、音楽産業のランキングと似たようなものである。その仕組みのミニチュアヴァ−ジョンを体験するのも悪い経験では無いと考えた。

4. そして若者達よ!
「GEISAI」はアーティストの皆さんにとっては現状打破のジャンピングボードだ!運営や進行に関して皆さんから意見百出されているかとは思うが、広い世界中の美術業界内においても、超弩級の特異点たるイベントである事は間違い無い。その自負こそが、「GEISAI」を推進させるエネルギーであり、最終的には参加した皆が満足しうるイベントにして行く努力を惜しまぬつもりだ。

とにもかくにも、我々の「GEISAI」を、まずは体験して欲しい。世界の美術シーンをも改革して行く20年後30年後を見据えたこれらのGEISAIプロジェクトは、皆さんの参加無くしては始まらない。

今回の会場は、最先鋭の美術館『森美術館』が控える六本木ヒルズ、森タワー内24階、特別会場で行われる。革命の瞬間。「GEISAIミュージアム」へ、是非足を運んで頂きたい。この美術イベントを、歴史の体験者として、目撃者として、身体全部で体験し、そしてアートの未来を造りだす種を見つけて欲しい。そしてその種を育てるのは今度こそ、日本人そのものであって欲しいと思うのだ。

GEISAI チアマン/村上隆

(GEISAIミュージアム パンフレットより)