GEISAI#2

1. はじめに

皆さん、こんにちは。当イベント「GEISAI-2」のチアマンの村上隆です。

2002年3月16~17日に東京タワーアミューズメントホールにて行われた「GEISAI-1」は、お陰様を持ちまして、アマチュア参加は537ブース、412組、プロブース17組、そして観客動員4,268人を集め、大成功に終わりました。主催者である我々の予想を25%程上回るリアクションに気を良くし、第2回目は場所を東京ビッグサイトに移して、前回の2倍程の規模で行うべくセッティングをしてまいりました。幸いアマチュアブースの申し込みは、今回も我々の当初の目標であった、1,000ブースを上回り、1,201ブース、805組を数えています。プロブースは今回17組と前回と同数。

観客動員は9,000人を予想していまして、全体を見渡せば、全てのスケールが2倍以上になっています。主催者と致しましてはこの勢いに拍車をかけて、次回「GEISAI-3」では「GEISAI-2」の2倍の規模、アマチュアブース2,000ブース突破、動員18,000人を打ち上げ、パシフィコ横浜において2003年春に、行いたいと思っています。そしてその同時期に、現代美術のアートフェアNICAF。そして○○○○フェスタも開催されます。すなわち我々の参入によって、アート系興行大戦争状態を演出し、日本にアート旋風を巻き起こそうと考えております。年2回開催されて行く予定の「GEISAI」シリーズに皆様、御期待頂けますよう宜しく御願い致します。

2.「夢工場の逆襲」とは?

『GEISAI』創世のきっかけは、東京芸術大学の学生だった当時の学園祭の「熱気」の再生、祭りを基盤とした芸術イベントの創造を行う事によって、日本人による日本人のための日本的芸術の再発見への道筋を探し当てられるかもしれないという野心に裏付けられています。

『祭り』の風景を芸術とからめて真剣に創造する。そんな興奮の坩堝からこの世界で生きて行こうとするプロが出て来る事を期待しつつ…。 混沌が一瞬にして同じ場で展開し、整備し直して、エンターテイメントの色合いを濃くしつつ、日本の閉鎖的なアートシーンを切り開いていく。「GEISAI-1」でそのスタートを切った我々は、今回の「GEISAI-2」におきましても、改めてテーマを持って進行運営にあたりたいと思います。

今回のテーマは「夢工場の逆襲」と銘打たれています。フジサンケイグループが仕掛けて来た80年代、局を挙げての夏の大イベント、「夢工場」。思い起こせば無理矢理作る日本の新しい祭りのフォームへの欲望は、クリエィティヴサイドから振り返る時、ポジティブに考える人は少ないかもしれません。

しかしロックコンサートからねぶた祭から、夕焼けニャンニャンの「おにゃん子クラブ」を一同に集めて連日多くの集客を誇ったこのイベント(ひと夏90万人の動員)は、EXPO70、大阪万博に次ぐ馬鹿馬鹿しくも盛り上がった国民的な祭りでもあったはずです。 EXPO70、大阪万博は現在リヴァイヴァルの兆しの中で、文化的なコンテクストづくりが盛んに行われていますが、80年代の徒花、「夢工場」も、文化的なコンテクストを一回真剣に考えてもいいのではないか?

だからといってバブル経済凄かったね、と言う訳でも無く、あの盛り上がりの核心はなんだったのか?を読み解く事によって、現代日本人の祭りへの狂騒のフォームが見えて来るのでは無いかというナゾ掛けなのです。 TV局が大きな資本によってメディアミックスを絡めて行った「夢工場」本体が逆襲して来る訳では無く、 手弁当の制作費によってその馬鹿馬鹿しいスピリッツの継承と創造を今回の「GEISAI-2」のテーマとしたいと思います。

3.「GEISAI-2」

アマチュアブースの特徴を列挙。全体をざっくりと考えてみたいと思います。

A、GEISAI-2GPでイラストの応募が殺到

GEISAI-2GPは、アマチュアを対象とした「コンペ、公募」イベントであり、展示即売の「アートフリーマーケット」です。 前回、537ブースだったのに対し、今回は約2倍以上の1,201ブースを数えることができました。 ただ多ければそれでよしと言う訳ではもちろんありません。 その熱量、クオリティこそが問われるのです。 前回、各方面から指摘のあった応募者の「ジャンルの片寄り」があるのも顕著になって来ました。 今回は圧倒的に『イラスト』の応募者が多く307組、全体の39%を占めています。 これにはいくつか理由が考えられます。

「GEISAI-2」の本戦審査員が「絵を描く」方達が占めていること、また雑誌「イラストレーション」誌における広告効果が大きかったことが考えられますが、それよりもアートという名の認識が「イラスト」という名に変わっても、なんら不思議には感じられないサヴカルシーンのリアルがあります。

20代の出展者が過ごした70~90年代においてパワーが弱体化した、「よくわからないアート文化」より、幼少期からのマンガやアニメ、ゲームといった身近な文化を入り口にした「イラスト絵」の延長線上にある「代用品としてのアートこそがリアル」。 という日本の現実が突き付けられてる、とも言えます。 私自身も「代用品としてのアート」というストーリーを逆手に取った、突然変異としてアート世界を踏破してきたこともあり、ポジティブに捉えれば、このような状況は、反転して日本発のオリジナルなアートを構築できる文脈が潜んでいる可能性があります。しかしイラストと言う名の本体とはなんなのか?

この名を真剣に考えた末、自身のジャンルとしてアイディンティファイしている参加者は非常に少ないと思います。 むしろイラストレーターと名乗った方がこういったイベント型のコンペでは「お仕事」がくる可能性が 高いという、下心込みのジャンル決定に見えるのです。

日本の社会に「アート」は必要無し。とかつてより唱え続けて来ている私の持論が裏付けされてしまったと言えるでしょう。イラストという名の作品をオリジナルピースとして売る行為のパラドクスに日本のクリエイティヴシーンの変形具合とオリジナリティを感じますが、それを購入して下さるお客様へ、価値そのもを、どう説明しょうというのか?参加者の新しいアイディア無しでは直ぐに消え去ってしまうフォームに思えます。

B、プロへの道

GEISAIでは、アマチュアからプロへの道を「よりわかりやすく」プレゼンテーションしており、システムについても思考錯誤を加えながら進めています。 前回、金賞の西尾さんは「第1回の金賞」という栄誉とともに、白石コンテンポラリーアートから、この9月13日よりデビューが決定。あの小谷元彦氏との2人展でのプロ初仕事となりました。 受賞から半年足らずでトントン拍子のスピード出世となりました。 彼の場合はそれまで十分な公募展におけるキャリアと実績(金賞、及びグランプリ受賞は今回だけではなかった)、さしづめ公募荒らしかと思われる程の公募展めった切りを行って来ていましたが、ついぞプロデヴューのチャンスが訪れることなく、「GEISAI-1」にまで流れ着いたのです。

すなわち彼の辿って来た公募展では、受賞はしたものの表舞台へ上がる決定的なチャンスを与えられなかった。まさに公募のインフレと無意味化を露呈させ続けて来たと言ってもいいでしょう。。 逆説的にはそんな「現場が欠落していた」事から、機が熟した状態で「GEISAI」という波を上手く活用し、化けたひとりとも言えます。 時を同じくして「GEISAI-1」の期間中に小山登美夫ギャラリーに売り込みを仕掛け、同ギャラリーからデビューが決まった(前回のただの出展者。賞の受賞、スカウトにはかすりもしていません)三宅信太郎くんにも同じ事が言えます。 すなわち他の場所で苦労し続けて来て、ハッと気付けば30歳を過ぎていた…。 そしてこの「GEISAI」によってなんとかデヴューの門をこじ開けることが出来た。

デヴューのチャンスはなにも若者の特権では無い、それも又「GEISAI」における実力主義を裏づけるエピソードでは無いか、と思います。「自分の意志をきちんと話せること」「相手が何を求めているかを理解すること」「相手のメリットを考えられる事」「〆きり、時間を守れること」「貴方の人柄、言葉使い、服装」など自身のベースに対してプロの方達からの「目に見えないテスト」は瞬時にして次々と繰り返され、そして知らぬ間に「判定」は出てしまう。

これまでキャリア組が結果を残しているのは、過去の失敗に裏づけされた土壇場における経験値の差とも言えるでしょう。そういう意味ではいまだプロのリングに上がることのない「名無しの芸術家達」もこのイベント「GEISAI」を戦略的に利用して欲しいとも思いますし、プロのディラーの方々も目を光らせて参加者の選定をしてみてはいかがでしょうか。最近はとんといいアーティストがいないと嘆くプロディーラーさんにこそ目を光らせて検索して頂きたいと思います。

逆に歳若くして「ファーストラック」的によくあるコンペで受賞してしまったが為に、その後が続いていない作家達も数多く見受けられます。これはGEISAIの前身である「芸術道場GP」と「GEISAI-1」で連続受賞した方が数名しかいないことからも明らか。受賞やスカウトはただの「きっかけ」にすぎません、そこから本当の作家としての生き残りを賭けた、サバイヴァルが否応なく始まってしまうのです。 まさに「いきはよいよい、帰りはこわい」の世界。出展者の方は「常在戦場」の心で、緊張感を持って審査に挑んでください。

C、販売とコンペの両立

これは正直難しい所です。主催者である私の個人的な考えでは、「GEISAI」は芸術のお祭りであるからして、なんでもありでしょう…。と勢いのみの考えから行っているパラドクスです。しかし芸術には幾つもの楽しみかたがあってもいいはず。プロへの道筋を求めるもよし、自分自身のセールストークを磨いて作品を売るもよし。そして作品発表を媒介に友人を作るだけでも、それは意義深いものです。コンペと販売。

まずコンペ。私の個人的な見解はあくまでお祭りを盛り上げるイベントと考えています。とはいってもプロのアーティストに見てもらう機会等そうそうないはず。高い参加費を支払ってくださっている参加者の皆様には、何度でも楽しんでいただけるような仕掛けを作りたいという発想から生まれて来ています。プロのディラーがスカウトをする、アート版「スター誕生」の現場も同じコンセプトによって企画されています。幾つもはり巡らされた「評価」という不確定な物への接近を「GEISAI」はぎりぎりまで演出していると自負しております。

そして販売。コンペの評価軸はあくまで先輩アーティストの個人的なもの。もっとマスに向けられた評価軸もあっても良いはずーが販売における重要なポイントです。ただしここで最低限の販売の際のマナーを助言します。身の程のわきまえはあって欲しい。マーケットの事を全く知らない美大系学生が「この作品には思い入れがあり、描くのに3ヶ月もかかったので30号の大きさですが200万円でどうでしょうか?」、というような思い込みによって世間のリアルとは掛け離れた価格設定を行うことが、どれだけ世間一般の人々から白い目で見られているか、芸術の世界への信頼を失墜させているかを知るべきです。

作品が猛烈に魅力があればそんな輩の作品にでも、プロの手が差し伸べられ、丁寧なレクチュアーが施され、(もちろんプロディーラーが都合の言い様にオーガナイズされる事も良くありますが)自作の適正価格を知って行く訳ですが、そうで無い者には価格設定のリアル等、知ろうはずも無いでしょう。すなわち完全に打ち捨てられてしまうのです。

リアルな情報を知り、自作の販売に役立てたい者は、まず、売れているブースの方々にインタヴューするなり、自分の懐を痛めて良い!と思った作品を購入し、フィーリングを掴むなり、また今回「GEISAI-2」を直前に控えた7月14日に我々が主催した「適正価格講評会」のようなものに参加するなり、それなりのリサーチ&努力をするべきです。だまって情報が集まって来る訳ではありません。

当たり前の事ですが審査員の方々への接し方、マナーは必ず守って下さいね。よく勘違いした輩が友人のような言葉使いで既に名をなしている方に話し掛けたりする場面がありますが、そのような姿勢は論外です。

4. イベント

今回も前回同様、会場の時間内はのべつまくなくイベントを行います。 アマチュアディラーの皆さんの入場時から一般入場者の帰るその瞬間まで、出来うる限りのプログラムをぎっしり詰め込んで行きます。芸術のお祭りを思う存分楽しんで行って下さい。

5. 今後の展開

最初にお伝えしましたように「GEISAI」シリーズは今後も規模を拡大させ、日本のアートイベントの代表となるよう、質実ともに発展させて行きたいと思っています。10月には「GEISAI」シリーズ発足1年目にして、はやくも海外進出を実行します。名付けて「GEISAI-上海-1」。そうです。これ1回のトライアルでは無い事を示唆して、あえてナンバリングしてみました。 細かい問題や業界からの軋轢はこれから益々強くなって来ると思われます。しかし芸術の名の元に「革命」への進路をとって、人が生きて行くには芸術がどうしても必要なんだという実感をこのイベントで手にできるよう、皆さんと共に走り出したいと思っています。日本における次のGEISAIは2003年の4月に予定しております。サブタイトルは「GEISAI-3/EYEOFTHETIGER!-byサバイバー」と奇妙キテレツなものです。そのテーマを今から深読みして準備しておいて下さい。

では、ビッグサイトにおける真夏のアートの祭典「GEISAI-2、夢工場の逆襲」をお楽しみ下さい。

(GEISAI#2 パンフレットより)